ロンドンにしてはよく晴れた土曜日の午後だった。当時の私はけっこう精神的に参っていたのだが、なぜかやたらエネルギッシュに踊りまくっていた。それも目を閉じて、同じように激しく踊る見ず知らずの人たちに囲まれて。
正直言って、私は静かに座って音楽を聴くタイプ。曲に合わせて、しかも人前で踊るなんて考えられない中年男だ。なのに、そのときの私は言われるままに体を動かしていた。「自分を解放しなさい」と言われた。「そして結果を受け入れなさい」と。
隣にいた女の人の足を踏んでしまって、怪我させたのは悪いと思っている。でも悪意はなかったし、彼女を含めて、居合わせたみんなが納得していたと思う。みんなストレスや不安から解放されたくて、この一風変わったセッションに参加したのだから。
その日の先生は、医者ではなかった。カウンセラーでも自己啓発のコーチでもない。元は広告会社の役員で、それなりにお腹も出ている中年男。実は彼自身も現役時代はいろいろ問題を抱えていて、いわば燃え尽きる寸前だったという。それで、仕事を辞めて人生をやり直すことにした。
それからは哲学や心理学、スピリチュアリズムの本を読みあさり気づいた。今の世の中はストレスを積み上げるばかりで、余裕がない。だから頭も心もすり切れてしまう。これじゃいかん、もっとリラックスしなければと悟った。
そして彼は自分の経験と本で得た知識を織りまぜて独自の理論を構築し、現代人のライフスタイルを変える「グル」に変身した。今では何冊もベストセラーを出し、人々の心を軽くする教室を各地で開いている。最初は「眉唾もの」だと思っていた私も、あの日、実際に瞑想し、目を閉じて踊ったことで本当に心が軽くなった。こいつは理屈じゃない。
クリシュナジ 哲人 クリシュナジの信奉者は1000万人。なかにはセレブもいれば社長や政治家もいる。インド南部の都市チェンナイにある彼の寺院には、世界中から講習を受けにたくさんの人がやってくる。
ケース1:ヒュー・ジャックマンが会いに来るクリシュナジ
「そもそも『グル』というのは、古代インドのサンスクリット語で『導く者』の意。それだけです」。電話口でそう教えてくれたのはクリシュナジ。この42歳の男にはそう言い切る資格がある。自身が正真正銘のグルであり、インドでは超有名で、世界中に1000万の信奉者がいるからだ。故郷はインド南部の大都市チェンナイ。彼はそこに最大8000人収容の寺院を建てた。そこへは欧米諸国からも、彼の評判を聞きつけた人たちがやってくる。俳優のヒュー・ジャックマンもそのひとりで、9日間3500ドルの講習を受け、ちゃんと修了したという。欧米の名だたる大企業の社長や、ときには政治家も訪れるそうだ。超多忙な有名人が、はるばるインドまで飛んでくるのはなぜか。「ここで私たちの教えることは、よそでは聞けませんから」と、クリシュナジは言った。その教えによれば、人生には苦しみと美しさというふたつの状態がある。現代人は前者の状態にどっぷり浸かっているが、クリシュナジの導きによって後者の状態に移れるという。
その教えを、クリシュナジは父から授かった。父も偉大なグルのひとりで、あるとき、この世のものとは思えないビジョンを見たという。彼自身も11歳のとき、父と同じビジョンを見た。「私はそれを受け入れた。自分の一部として、素敵な体験として」。クリシュナジはそう言い、人を導くのは自分の受けた天命だと付け加えた。「これって実に美しいことですよね」。あいにく西洋人のグルはここまで言えない。運良くクリシュナジのように素敵なビジョンを見られたとしても、公言はしない。顧客はたいてい合理主義者で疑り深いから、スピリチュアルな話には乗ってこない。だからもっと〝地上的〟なアプローチをとる。
ウィル・ウィリアムス Beeja Meditation 創立者 どん底から這い上がったウィル・ウィリアムス。今はロンドンで新たな「意識革命」を目指している。
ケース2:音楽業界から転身したウィル・ウィリアムス
たとえばウィル・ウィリアムス。40歳になったばかりだが、少年時代から非日常的な感覚に強く惹かれていた。最初のうちはビールを浴びるように飲んで酔いつぶれた。20代ではドラッグにはまり、マリファナもコカインも試した。とにかく刺激が欲しかった。だから音楽業界に入り、いろんなバンドのマネージャーをやり、毎晩のようにナイトクラブのイベントを仕掛けた。楽しかったが、30代になると体が悲鳴を上げた。体重が激減し、病院に運び込まれた。「自分は勝ち組だと、ずっと思っていたが」とウィルは言う。「気がつけばベッドから起き上がれなくなっていた」。そんなとき、友人から勧められたのがインドの伝統医学アーユルヴェーダに由来する瞑想法だ。映画監督デヴィッド・リンチの愛する超越瞑想に似ているが、1日2回、あるマントラ(呪文)を20分間、ひたすら声に出さずに唱えなければならない。そうすることで脳神経が落ち着き、アルファ波が出てリラックスできるという。
最初は半信半疑だったが、ウィルは「失うものは何もない」と開き直って瞑想教室に参加した。すると、効いた。頭痛薬と違って一発では効かないが、無言マントラの練習を重ねるにつれて気分が落ち着き、身体的な症状も消えた。
それで思い切って仕事を辞め、インドに渡って本格的にアーユルヴェーダを学んだ。そして西洋人の生き方は根本的に間違っていると気づき、この古代インドの知恵をイギリスに持ち帰って広めたい、うまく現代風にアレンジすれば多くの人に受け入れられるはずだと考えた。帰国したウィルは、ロンドンに瞑想センターを設立した。すると音楽業界の人脈を通じて有名人の顧客を獲得でき、評判も上がった。
こうして瞑想ビジネスは成功したが、成功の代償も大きかった。恋人には逃げられた。家賃の高騰でセンターの移転も強いられた。ストレスは多い。それでも続ける意味があるのかと問うと、ウィルは笑顔で答えた。「変なやつだと思われるかもしれないが、心の底で声がするんだ。おまえはこのために生きている、意識革命を起こすためにロンドンに戻ったんだと。だからストレスなんて気にならない」。
Words ニック・デューアデン Nick Duerden
Illustration セニョール・サロメ Señor Salome
Translation さわだ組 Sawada Gumi
"ビジネス" - Google ニュース
April 11, 2020 at 07:44AM
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