今年6月に現役引退を発表した、08年北京オリンピック(五輪)トランポリン男子個人4位の外村哲也さん(36)が、ビジネスコーチとして第2の人生を歩み始めている。肩書は「メンタルクリエイター」。主に起業家や経営者らが対象で、ビジネスで上を目指すためにメンタル面でアドバイスを行う。ビジネススクールに通いながらも、すでにある起業家のビジネスコーチを行っている。

トランポリンの国際大会で計14回、優勝した経験を生かせると考えた結果だった。「世界の頂点という大きな結果を出した経験は誰もができるわけではない。どんな逆境にも、もちろん、コロナにも負けないメンタルを手に入れたと思っています」と強調。「メンタルの強さはビジネスなど他の分野でも必要なもの。選手としてのキャリアを生かして、社会貢献をしていきたい」と意気込んでいる。

現役引退後のセカンドキャリアに悩むスポーツ選手は多い。外村さんも6月末に引退表明した際は将来設計が定まっていなかった。

父親は84年ロサンゼルス五輪で団体と床で銅メダルを獲得した外村康二さん(62)。現役引退後に苦労してきた父を間近で見てきた。「日本代表コーチに就いても、一生続くわけではない。スポーツだけで生きていくことは大変です。何か本業を持たないと、競技強化の仕事は難しい。世界一のものを提供できても、生きていくためのお金をなかなか確保できないです」。トランポリンから離れることはない。「多くの方に安全で楽しいものと身近に感じてもらいたい」と、普及活動に力を注ぐつもりだ。

東京五輪が来年に延期され、コロナ禍も含め、全力で競技を行う環境が整わないなどとして引退した。「(五輪に)未練はまったくありません」と話す。「セカンドキャリアを成功させたロールモデルになれれば。マイナー競技選手でもできると証明したい」。新たな目標を定め、力強い第1歩を踏み出したばかりだ。【近藤由美子】

◆外村哲也(そとむら・てつや)1984年(昭59)10月9日、東京都生まれ。日体大体育学部卒。体操の調整でトランポリンを跳んでいたが、小4から競技に転向。04年全日本選手権個人優勝。05年世界選手権個人銅メダル、11年同選手権団体優勝など。08年北京五輪で日本人最高位の4位入賞。日本代表として国際大会に64回出場し計36個のメダルを獲得。血液型B。