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言葉をこん棒として使う人たち:日経ビジネス電子版 - 日経ビジネス電子版

全6279文字

 今回は、本当は「炎上」について書きたいと思っている。
 しかしながら、まだ気力が戻っていない。
 炎上を語るためには、炎上を覚悟しなければならない。
 ところが、いまの自分には、炎上を引き受けながら、炎上の本質をえぐる原稿を書くための精神の準備が整っていない。

 こんなふうにして、炎上は、ものを言う人間から気力を奪っていく……と、今回はこの結論だけをお伝えして、別の話題について書くことにする。

 ものを書く人間に限らず、スポーツ選手であれミュージシャンであれ、何らかの形で社会に向けて発言する人間は、誰もが炎上のリスクをかかえている。
 もっとも、炎上を避けること自体は、そんなにむずかしいタスクではない。
 ものの言い方を手加減すればそれで済む。
 ただ、私がこの場を借りて強く言っておきたいのは、
 「この世界の中には、ものの言い方を手加減した瞬間に価値を喪失してしまうタイプの言論があるのだぞ」
 という事実だ。

 誰かが炎上するたびに
 「あとで取り消さなければならないようなことは、はじめから言わなければいいのではないでしょうか」
 てなことを言ってのける学級委員長みたいな人々が登場する。
 もちろん言っていることの意味はわかる。私自身、半分以上はあなたのおっしゃる通りだとも思っている。
 でも、残りの半分弱のところが、私はどうしても納得できないのだね。

 その「納得できない気持ち」を論理的な言葉として表現するのは簡単なことではないのだが、あえて書いてみればこういうことになる。つまり、何かを書いたり表現したり伝えようとしたりすることの中には、「あとで取り消さなければならないこと」が余儀なく含まれているということだ。
 ものを書くというのは、そういうことだ。

 「三振するくらいなら、はじめから打席に立たなければいいのに」
 てなことでは打者はつとまらない。
 「空振りに終わるスイングもあるし、三振に倒れる打席もある。それでもなお、バットを振り続けなかったらホームランは決して打てない」
 と、野球をやったことのある人間なら必ず同じことを言うはずだ。
 原稿執筆業者も同じだ。

 われわれは事後的に了解できることだけを考えているのではないし、結果として無問題なことだけを書いているわけでもない。
 手さぐりで書いてみた結果、こっちの執筆時の気持ちとはまったく別の文脈で解釈されるケースもあるし、脊髄反射の発言が思いもよらぬ場所にいる人間の気持ちを傷つける場合もある。そのほかにも、手ぐすね引いてこちらの失言を待ち構えている人々のトラップにひっかかる事例も少なくない。いずれにせよ、何かを表現したり描写したり創造したりする作業にかかわる人間は、自分の言葉が自分自身の予測を超えた場所に届く可能性にいつもおびえている。

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September 04, 2020 at 03:15AM
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