イタリアで「4大マフィア」と呼ばれるのが、ナポリの「カモッラ」、シチリアの「コーサ・ノストラ」、プーリアの「サクラ・コローナ・ウニータ」、そしてカラブリアの「ンドランゲタ」だ。「勇気」を意味するギリシア語に由来するンドランゲタは、ほかの3組織よりも世界的に名は知られていない。だが、近年この犯罪組織は影響力を強め、国際的な犯罪組織にまで成長している。 その裏には、イタリアの公共医療システムを食い物にし、世界の金融システムに紛れ込むという巧妙な手段が隠されていた。 英「フィナンシャル・タイムズ」紙が、ンドランゲタの闇を暴く。 南イタリアに位置するカラブリア州ラメーツィア・テルメの簡素な病院の霊安室──そこに眠るすべての遺体は、ヨーロッパでもっとも非道な犯罪組織にとって数千ユーロの価値をもつ高価な“商品”だ。 そこでは亡くなった息子の体がまだ温かいうちから、悲しみに沈む父親は葬儀会社の男たちに脅されていた。 葬儀会社の男たちは、どういうわけか亡くなった患者を家族より前に把握していた。彼らは脅しをかけて病院内部の患者の記録を入手し、とくに容体が悪く、死ぬ可能性の高い患者を選別していたのだ。 遺族が愛する家族の遺体を別の葬儀会社に連れて行こうとすれば、男たちはすぐにそれを思いとどまらせようとする。 「容体の悪い患者を取り合って、今にも殴り合いが起こりそうだったよ」 捜査官が盗聴した会話のなかで、怯えた医療スタッフが同僚にそう話していた。 「あいつらがやっていることは口に出すのも恥ずかしい。遺族が来たときには、もう葬儀屋が到着してたんだ」 カラブリア州の医療ビジネスを牛耳る「ンドランゲタ」は、イタリアの外ではその名をほとんど知られていない。だが、彼らは今ヨーロッパで最も危険で、経済的にも豊かな国際的マフィアに成長しているのだ。
「山で暮らすヤギ農家」から国際的な犯罪組織へ
ここ20年のあいだ、ンドランゲタは本拠地であるカラブリア州外へ活動の幅を広げてきた。最近では、ヨーロッパへコカインを輸入するだけでなく、武器の密輸やゆすり、国境をまたいだマネーロンダリングなどもおこなっている。 現在は、数百もの独立組織がンドランゲタ傘下に入り、年間の総取引高は440億ユーロにものぼると見積もられており、それはメキシコの全麻薬カルテルの取引高を合計したものを上回る。 しかしそうした金になる犯罪行為のなかでも、イタリアの公共医療事業から巻き上げている額は群を抜いている。ンドランゲタは、地方の役人を買収して自分たちが所有するフロント企業と契約を結ばせ、巨額の利益を得ているのだ。 そうしてこの犯罪組織は、欠陥のある救急車で患者を搬送することから、血液の輸出や、遺体の搬送サービスまで独占してきた。こうしたサービスはすべて政府が出資し、地方で運営されている公共医療サービスを通じてイタリアの納税者の負担となる。 公共医療サービスは年間何十億ユーロもの予算を配分しており、マフィアにとっては最高のターゲットだ。組織の支配があまりに強いため、ラメーツィア・テルメの医師たちは病棟の外でンドランゲタから送られてきた男たちがやってくるのを待ち、ドアの鍵を開けてやらざるをえないのだ。 本紙の調査で、こうした犯罪行為によって得られた金がどのような経路をたどってロンドンやミラノといった金融の中心へ流れていったのかが明らかになった。 ここ5年のあいだ、カラブリア州の病人の不幸につけこんで得た利益は、ヘッジファンドや金融工作を用いて債券へとまとめられていた。さらに、これらの債券のうち何億ユーロ分かが、イタリアのプライベートバンクから韓国の年金基金にいたる国際投資家たちへと売却されたのだ。 カラブリア州の医療危機から利益を得たマフィアが資本市場を利用していたことはこれまで報道されてこなかったが、かつて「山で暮らすヤギ農家」とバカにされていた犯罪組織が、グローバルな犯罪組織へと変質したことは明らかだ。いまやマフィアにとって、高尚な金融の世界で活動するのは、地方企業をゆするのと同じくらいたやすいことなのだ。
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August 08, 2020 at 04:00PM
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イタリア医療ビジネスを牛耳る“スマート”マフィア「ンドランゲタ」とは（クーリエ・ジャポン） - Yahoo!ニュース
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