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次なるカギはAIか ~新型ウイルスで進むAI活用~ - NHK NEWS WEB

次なるカギはAIか ~新型ウイルスで進むAI活用~

パンデミック=世界的な大流行が加速しているとされる新型コロナウイルス。いま私たちは、感染拡大に歯止めをかけようと闘っている。こうした中、AI=人工知能を活用してウイルスとの闘いに挑もうとする企業や研究に注目が集まっている。ウイルスの遺伝情報の分析やワクチン開発、それに感染者の遠隔診療などで、AIが効果を発揮するのではないかと、期待が高まっているのだ。(国際部記者 曽我太一)

AIが次なるカギか

AIを使った医療で注目を集める企業の1つが、アメリカ東部ボストンに拠点を置くスタートアップ企業「バイオフォーミス」だ。シンガポール出身のエンジニアが、2015年にシンガポールで起業したあと、アメリカに拠点を移し今ではスイスやインドにもオフィスを持っている。アメリカの調査会社の報告書では、デジタルヘルス分野で最も革新的な企業の1つにあげられている。

バイオフォーミスは、医師が遠隔で患者の容体を観察できる機器を開発している。患者が装着する腕時計型の機械には、心拍の変化や体温、血圧など20以上の生理信号を感知できるセンサーが付いている。計測されたデータをスマートフォンのアプリで確認できるほか、インターネットを通じリアルタイムで医療機関に送ることもできる。

分析の仕組みはこうだ。AIはこれまでに感染が確認された人について、肺炎の症状が現れるまでの体調の変化などのデータを機械学習し、今後症状が現れるであろう人の体調の変化や兆候を予測・分析する。

AIがわずかな体調の変化を捉えることができれば、人間では気が付くことができない早期の段階でも発見につながる可能性がある。医師など医療従事者への感染も広がるなか、クルディープCEOは遠隔診療としてのメリットをこう説明する。

クルディープCEO
「医学学会誌でも、新型コロナウイルスは症状が目に見えて現れる4~5日前には、すでに感染しているケースが多いと報告されています。そして、その数日の間にも、感染者が医師などほかの人にウイルスを移してしまう可能性があるんです。でも、症状の1つである息切れは、自分では実際に症状が現れるまではわかりませんし、そうした症状はすぐに現れるのではなく、だんだんと現れてくるのですが、その段階的な変化を見つけ出すことが大事なのです。AIを使えば、こうしたわずかな変化でも見つけ出すことができるんです」

バイオフォーミスの腕時計型の装置は、すでに香港の大学病院で患者50人が実際に身につけていて、今後は1000人程度まで増やす予定だ。さらに、アメリカ国内の3つの病院でも導入されているほか、感染者の増加が続いているイタリアやドイツ政府などとも導入に向けた交渉をしているという。

会社は患者のデータにはアクセスできず、自分たちだけでは成果を調べられないが、香港の大学病院側からは、すでに「極めて前向きな」フィードバックをもらっているという。

クルディープCEO
「AIをベースにしたこのプラットフォームの最終目標は、自宅にとどまって検疫する必要がある人を、遠隔でも継続的に観察し、症状が現れる前のわずかな変化を見つけ出すことです。それができれば、各国政府や当局は、本当に必要がある人だけを専門の医療機関などに移送して治療することができ、ヒトからヒトに感染するのを抑えることができると思うんです」

AIを使った試行が続く

医学や生理学などの分野でAIやデータ分析を活用するのは「バイオインフォマティクス」と呼ばれる。感染が世界的に広がるにつれて、研究や分析が盛んになっている。

カナダのスタートアップ企業「ブルードット」は、AIを使い位置情報などから感染リスクが高い地域からの人の移動などを分析し、次に感染拡大が起きそうな地域を予測していて、カナダ政府やシンガポール政府でも採用。カナダのトルドー首相は今月23日、「WHOの警告よりも9日早く、世界でもっと最初に新型コロナウイルスの感染拡大を特定した」と記者会見で賛辞を送った。

取材を申し込んだところ、世界中から問い合わせを受けているため対応できないとのことだったが、「私たちは、顧客の特定のニーズや地理的条件に合わせた形で、分析を提供している」とコメントしている。

イギリスの研究機関は、囲碁界のトップ棋士を打ち負かして話題となったAIの「アルファ・ゴ」を設計した企業「ディープ・マインド」が開発した、たんぱく質の構造を予測するAIを活用。ウイルスは、ヒトの細胞の表面にある「受容体」と呼ばれるたんぱく質に結合することで感染するため、たびたび変容するウイルスの構造をAIを使って速く正確に分析できれば、早期のワクチンの開発につながる可能性がある。

AIの開発に力を入れている中国でも、民間企業の動きが活発だ。検索エンジン「バイドゥ」の研究部門「バイドゥ・リサーチ」はことし2月、新型コロナウイルスのゲノム構造の予測をこれまでの120倍の速さの27秒で行えるAIのプログラムを無償で公開した。

さらに、クラウドビジネスにも力を入れるネット通販の「アリババ」は、AIの画像認識技術を用いてCT画像を分析するプログラムを公開。ディープラーニング技術を用いたこのプログラムでは、96%の精度で新型コロナウイルスの画像診断をできるとしている。

進む「オープン・リサーチ」

感染拡大が続くアメリカでは、ホワイトハウスまでもがAIの活用に乗り出した。先月中旬(3月)、大手ITのマイクロソフトや国立医学図書館などとともに、研究論文などを機械で判読可能な形で公開するプロジェクトを始めたと発表した。

新型コロナウイルスが確認されて以降、これまでに2000本以上の研究論文が発表され、関連記事を合わせるとその数は3万件に上る。この膨大な文書をAIで読み解けるようにしたのだ。

さらにプロジェクトでは、いまだ詳しく解明されていない新型コロナウイルスについて、「年齢や性別によるウイルスの潜伏期間」や「喫煙が与える影響などいくつかのリスク要因」といった10個の課題を出し、これらの課題に最も適切な回答を導き出した人には、報奨金を出すコンペ形式にしている。こうしたコンペ形式でアイデアを募るのは、アメリカのシリコンバレーでもよく行われる手法だ。

AIについて詳しい産業技術総合研究所の神嶌敏弘主任研究員は、この取り組みの長所を以下のように説明する。

神嶌 主任研究員
「膨大な論文を人間が読むと時間がかかる上、専門の論文は、専門知識のある生物学者や医学者じゃないと読めず、AIを開発するコンピューター科学者と知見を共有できない。共通のプラットフォームを作ることで、互いの分野の協力が促され、新しい治療薬の開発や、感染拡大の防止策の発見につながるかもしれない」

WHOが世界的な流行を意味する「パンデミック」を宣言したのは先月11日。その時点で、およそ11万人だった感染者は、25日現在で70万人を超えていて、亡くなった人の数は、4000人から3万人を超えた。感染のペースが加速し、まさに時間との闘いが求められるなか、AIと人間の協働がウイルスとの闘いにどのような成果を上げることができるのか、引き続き取材していきたい。

国際部記者
曽我 太一
平成24年入局
札幌局などをへて現職
スタンフォード大学の客員研究員としてデジタル技術について研究

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